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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)149号 判決 1975年3月20日

原告 澤山サヤ

右訴訟代理人弁護士 町彰義

同 柴山誉之

右訴訟復代理人弁護士 中川秀三

被告 久保田鉄工株式会社

右代表者代表取締役 米田健三

右訴訟代理人弁護士 植垣幸雄

同 林田崇

同 和島登志雄

被告 中谷運輸株式会社

右代表者代表取締役 中谷巌

右訴訟代理人弁護士 森恕

主文

一、被告らは原告に対し、各自金一九、八七一、八二三円及びこれに対する昭和四六年一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、この判決は、原告において各被告に対し各金二〇〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文第一、二同旨及び仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

(被告両名とも)

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1、原告の三男亡澤山正三郎(以下正三郎という)は、キャタピラ三菱株式会社(以下訴外会社という)大阪支社南支店サービス部品課に勤務し、サービス係として建設機械修理等の業務に従事していたところ、昭和四五年五月一八日午後一時五五分ごろ、被告中谷運輸株式会社(以下被告中谷という)の依頼により、被告久保田鉄工株式会社(以下被告久保田という)の大浜工場(堺市築港南町所在)構内道路上(別紙図面にて示す場所)において、訴外会社製九五〇型ホイールローダの油圧タンク・エレメントの油もれを修理していた際、突然右道路の側溝を拒てた半製品置場内の鋼管集積場(以下本件集積場という)から、集積されていた被告久保田が所有管理する鋼管約三〇本のうち二本(いずれも直径七一一・二ミリメートル、厚さ一二・七ミリメートルで、うち一本の長さ八、四〇〇ミリメートル、重さ一、八四〇キログラム、他の一本の長さ八、九〇〇ミリメートル、重さ一、九四九キログラム)が、正三郎の背後から転落してきた。正三郎は、とっさのことでこれを避けることができず、右鋼管により後頭部を強打され、よって、脳挫創等の傷害を受け、そのため、同日午後二時二〇分ころ、阪堺病院において死亡するに至った。(以下、右事故を本件事故という。)

2、被告久保田の責任

(一)、土地工作物責任(民法七一七条)

(1)、被告久保田は、本件事故当時、前記大浜工場を所有し、同工場内に同被告製造所有の鋼管の本件集積場を設置し、これを占有かつ所有していた。

(2)、本件集積場の敷地は埋立地であり、かつ、本件集積場横の側溝から約一ないし二メートルは傾斜地であって、本件集積場は、右傾斜地上に盤木(三寸五分角)や鉄道レール用枕木などを積上げて人工的に作られ、その上に鋼管を集積していたのであるから、右土地、盤木及び枕木が、ないしはこれに鋼管をも加えたものが、全一体となって土地の工作物を構成するものである。

本件集積場は、口径、長さの異なる鋼管を無秩序に俵積みする方法を取っており、その地盤は埋立地であって軟弱である上、鋼管の重量及び隣接地の他の会社工場内を通行する生コン車などの振動などが、継続的ないし頻繁に加わり、地盤が変動する可能性が大きく集積された鋼管が崩れ又は転落する危険性が高い。そして、側溝を隔てて道路に面しているから、右転落などにより道路上の人間に損傷を与えることがあるから、このようなことのないように施設を設けることが必要である。そのためには、転落した鋼管が道路にまで到達することのないように道路からの距離を有すること、前記傾斜地を整地舗装し、転落防止用の柵又は杭を設備するなどの安全施設を設置する必要があるのにこれを欠いた。これは、土地工作物である本件集積場の設置又は保存に瑕疵があったもので、これによって、本件事故が発生したものである。

(3)、本件集積場前の道路ないしは前記大浜工場内の道路全体は、土地工作物であり、その傍に本件集積場があるのであるから、本件集積場から転落してくる鋼管があった場合、前同様の柵又は杭を道路の端に設置するか、本件集積場との間に前同様の距離をおくなどして、道路上の人間を損傷しないよう設置すべきであるのに、これを欠いた。右瑕疵により本件事故が生じた。

(4)、右(2)、(3)の集積場及び道路は全体として一つの土地工作物であり、これには右同様の瑕疵があり、これにより、本件事故が生じた。

(5)、前記大浜工場は全体として一つの土地工作物であり、これには、前同様の瑕疵があり、これによって、本件事故が生じた。

(二)、使用者責任(民法七一五条)

(1)、被告久保田は、被告中谷を雇い、同被告その従業員を使用して、被告久保田の営業活動として、同被告製作の鋼管の移動全般とりわけ本件集積場における鋼管の集積作業を行なわしめていたものである。

仮に、被告両名間の右作業に関する契約が請負であるとしても、契約内容の重要部分である集積場所の指示は被告久保田がなすことになっており、実際の運用面でも、同被告の職員が、集積方法、集積の山の高さ、形状、盤木、レールの使用方法、歯止の方法、吊上、吊降の方法、集積された鋼管の管理等について、被告中谷の職員に直接指令して右作業を行なわせていたことから、実質的には、被告久保田が被告中谷を使用して右作業を行なわせたものである。

本件事故は、右集積作業における被告中谷の後記不法行為により生じたものであり、被告久保田はその使用者として又は使用者に準じて本件事故につき責任を負うものである。

(2)、被告久保田は、安全管理者を選任し、右工場内における安全管理をさせていた(主任安全管理者上松敏明)のであるから、同安全管理者は、被告中谷をして本件集積場で鋼管の集積を行なわせるに当って、その集積方法につき特に転落を防止するための適切な指示を与え、また、同被告が集積した鋼管の状況を点検し、転落の恐れがある鋼管の有無を確かめ、同被告に適時適切な指示をなすべきであったところ、これらを怠ったため本件事故が発生した。よって、被告久保田は、本件事故につき右安全管理者の使用者として責任を負う。

(三)、注文者の責任(民法七一六条但書)

仮に、被告久保田が、被告中谷に、本件集積場における鋼管の集積作業を請負わせていたとしても、前記(一)の(2)のとおり、本件集積場は鋼管転落の危険性が高く、かつ、その防止設備も存しない場所であり、右事実は容易に予見できたのに、被告久保田は被告中谷に右場所を指定して集積作業をさせたものであり、過失により不適当な場所を指図し、かつ、事故防止につき適切な指図をしなかった。よって、被告久保田は、注文者として、右指図に従ってなした被告中谷の集積作業により生じた本件事故につき責任を負う。

(四)、通常の不法行為責任(民法七〇九条)

被告久保田は、自ら前記(二)の(2)の指示をなすべきであったのにそれらを怠ったため本件事故が発生した。よって、被告久保田は本件事故につき責任を負う。

3、被告中谷の責任(使用者責任・民法七一五条)

被告中谷は、その従業員田辺勝、同立村雅夫、同村田貞夫らをして、前記工場構内において、鋼管集積作業を行なわせていたが、右立村らは昭和四五年五月中旬ごろ、本件集積場において右作業を行なうに当り、鋼管の道路上への転落を防止するため、鋼管の大小をそろえ、かつ、相当の歯止を施し、杭又はロープでささえるなどの万全の措置をとるべきであり、また、たとえ鋼管が転落しても、道路上には到達しないように、道路から一定の間隔をおくか、又は鋼管と道路とが直角をなすように集積するなどの措置を講ずるべきであったのに、不注意によりこれらをいずれも怠ったから本件事故が発生したものである。よって、被告中谷は、使用者として右事故につき責任を負う。

4、損害

(一)、正三郎の得べかりし利益の喪失

正三郎は死亡当時、満二六才(以下いずれも満年令)であり、訴外会社において、停年である五五才までは就労可能であったものである。また、訴外会社では五〇才までには係長になることができる。

(1)、本給

訴外会社における社員昇給規則に基づく平均昇給率により正三郎の得べかりし、二六才から五五才までの本給月額は、別紙収入計算表(一)本給欄記載のとおりである。

(2)、勤務給

訴外会社における社員賃金規則によれば、四九才までは月額本給の一・三八六倍及び一、〇〇〇円が、五〇才から五五才までは月額本給の一・六六二倍が支給されるものであり、正三郎の得べかりし勤務給月額は、別紙収入計算表(一)勤務給欄記載のとおりである。

(3)、時間外賃金

訴外会社における労使協定に基づく時間外勤務時間は月五〇時間(正三郎の実働は平均月八八時間)であり、前記賃金規則によれば時間外賃金は、時間割賃金

(本給+勤務給/7.5(時間)×23(日))の・一二五倍であるので、正三郎の二六才から四九才までの得べかりし時間外賃金月額は別紙収入計算表(一)時間外賃金欄記載のとおりである。

(4)、職責手当

前記賃金規則によれば、管理職には、月額一五、〇〇〇円の職責手当が支給されることとなっているので、正三郎の得べかりし五〇才から五五才までの職責手当月額は、別紙収入計算表(一)職責手当欄記載のとおりである。

(5)、賞与

訴外会社における正三郎の死亡前三年間の平均賞与は、夏季が本給の五・六ヵ月分、冬季が同五・九ヵ月分であったので、これによると、正三郎の二六才から五五才までの得べかりし賞与年額は、別紙収入計算表(一)賞与欄記載のとおりである。

(6)、以上の給与につき、別紙収入計算表(一)社会保険料欄、所得税欄、住民税欄各記載の社会保険料、所得税、住民税年額を控除し、昭和四六年一月一日を基準とする各年ごとの現在の価額をライプニッツ式計算法により、年五分の中間利息を控除して計算すると、別紙収入計算表(一)補償請求額のとおりになり、合計一一、四五二、二九〇円となる。

(7)、退職金

訴外会社の社員退職金規則によれば、停年による退職金は、停年退職時の本給月額に支給系数を乗じたものであり、正三郎の停年退職時の本給月額は前記のとおり金六九、八〇〇円であり、支給系数は八三・〇であるから、正三郎の得べかりし退職金は金五、七九三、四〇〇円である。

右退職金から、税金一二、九二〇円を控除した金五、七八〇、四八〇円につき、ライプニッツ式計算法により年五分の割合の中間利息を控除して昭和四六年一月一日現在の価額を計算すると、金一、三三七、四二九円となる。

(8)、停年退職後の収入

訴外会社社員就業規則によれば、正三郎は停年退職後一年間は、同退職時と同一給与で、訴外会社に勤務でき、その後は、少くとも六五才までは就労可能であって、その税込月収額及び賞与は五五才当時の収入の半額を下らないが、これを半額として、前同様の方法で、税金、生活費を控除した上、ライプニッツ式計算法により昭和四六年一月一日現在の価額を計算すると、別紙収入計算表(一)各欄記載のとおりとなる。

(9)、以上の合計金一三、八七一、八二三円が、正三郎が本件事故により喪失した得べかりし利益額である。

(二)、慰謝料

本件事故による正三郎の死亡によって母である原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、金五〇〇万円が相当である。

(三)、弁護士費用

原告は、本件事故の損害賠償につき被告らと接渉したが、被告らに誠意がないため、やむをえず本訴を提起したもので、その際、原告代理人弁護士町彰義及び同柴山誉之に対し、金五〇万円の着手金を支払い、かつ、本訴において勝訴した場合は、勝訴額の一割を謝金として支払う約束をした。

(四)、原告は、正三郎の母であり、唯一の相続人である。

よって、前記(一)の正三郎の逸失利益の損害賠償請求権を相続により取得した。

5、よって、原告は被告らに対し、4の(二)、(四)の損害金全額及び(三)の弁護士費用のうち着手金全額と謝金の内金五〇万円の計一九、八七一、八二三円並びにこれに対する訴状送達の翌日である昭和四六年一月二五日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告久保田の認否)

1、請求原因1のうち、正三郎の職務内容、原告との身分関係は不知、その余の事実は認める。

2、同2の(一)の(1)のうち、被告久保田が、本件事故当時大浜工場を所有し、同工場内に同被告製造所有の鋼管の本件集積場が設置されていたことは認め、その余の事実は否認。(2)のうち、本件集積場の地盤が埋立地であって軟弱なこと、本件集積場横の側溝から約〇・八ないし一メートルは傾斜地であり、右側溝を隔てて道路に面していること、右敷地上に主張の盤木や枕木などを積上げて、その上に鋼管を集積していたこと、右傾斜地を整地し、敷地を舗装していなかったこと、転落防止用の柵又は杭を設備していなかったことはいずれも認めるが、その余の事実は否認。本件集積場即ち敷地、盤木及び枕木ないしはこれに鋼管をも加えたものが全一体となって土地工作物を形成していたとの主張並びに右整地舗装及び柵又は杭を欠いたことが工作物の瑕疵にあたるとの主張は、いずれも争う。傾斜地は作業上必要であり、柵又は杭は作業上支障をきたす上、鋼管転落を防ぎうるものではない。また、敷地を舗装しても、日を経ずしてひび割れ、破損、傾斜を生ずる恐れがあり、かえって修復が困難になる。(3)のうち、柵又は杭を欠いたことは認めるが、その余の事実は否認、法律上の主張は争う。(4)、(5)については右の認否に同じ。

同2の(二)ないし(四)はいずれも否認。

3、同3、4は不知。5は争う。

(被告中谷の認否)

1、請求原因1のうち、正三郎の職務内容、原告との身分関係は不知、その余の事実は認める。

2、同2の(一)ないし(四)はいずれも争う。

3、同3のうち、被告中谷が原告主張の三名をして、主張の場所で主張の作業をさせていたこと、鋼管の大小に多少の差があったこと、杭又はロープでささえていなかったことは認めるが、その余の事実は否認。被告中谷は、被告久保田から本件集積場における集積作業を請負う前から存在している状態の上に、慎重に積足しただけであり、右積足した過失はなく、それ以前の状態については、全く関係がない。

4、同4はすべて争う。同5は争う。

三、抗弁(被告両名とも)

損益相殺

原告は、次の計金八、三三一、八三五円については、本件事故により利益を受けたものであり、これを損害額から控除すべきである。

1、訴外会社から受領した弔慰金三〇〇万円

2、労働者災害補償保険法に基づき受領した遺族補償一時金一、〇二五、六〇〇円

3、同法に基づき昭和四九年一一月受領した遺族補償年金一ヵ月分金三〇、八八三円

4、同五〇年二月から原告死亡に至るまで、三ヵ月毎に、右年金三ヵ月分九二、六五〇円(年間金三七〇、六〇〇円)が支給されることになっている。(同年四月一日以降一年毎に物価上昇にスライドして引上げられることになっている。)原告の平均余命は一六・一年(六四才として厚生省大臣官房統計調査部編「第一三回生命表」による。)であるから、これを一六年として、ホフマン式計算法により民事法定利率年五分の割合による中間利息を控除した右年金の現在価額は次のとおり、金四、二七五、三五二円となる。

370,600円×11.5363=4,275,352円

四、抗弁に対する認否

主張の1ないし39各金員を受領したこと、4主張のうち、昭和五〇年度に金三七〇、六〇〇円が支給されることになっていること、六四才の女性の平均余命が一六・一年であることは認め、その余の事実は否認。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、請求原因のうち正三郎が原告の三男であることは、≪証拠省略≫により、正三郎が事故当時訴外会社大阪支社南支店に勤務していたこと、及び所属部署、職務内容については原告主張のとおりであることは、≪証拠省略≫により、それぞれ認められ右認定に反する証拠はなく、その余の事実については、当事者間に争いがない。

二、被告久保田の責任

原告は、被告久保田に対し土地工作物の責任を主張している。そこで、本件集積場が土地工作物かどうかはその設置、保存に瑕疵があるかどうか又その所有、占有関係及び本件事故との因果関係を以下に検討する。

1、本件集積場は土地の工作物に該当する

民法七一七条にいう「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的作業を加えることにより成立した物と解されるが、何が右にいう土地の工作物に該当するかどうかの問題は、単に右のような抽象的な定義の分析によるべきではなく同条の趣旨とするいわゆる危険責任の見地から、具体的事案に応じて、個別的に、責任を加重するに適するか否かを考慮して検討されねばならない。

よって、案ずるに、前記大浜工場の半製品置場に本件集積場があること、その地盤は埋立地であって軟弱であること、本件集積場横の側溝から少くとも約〇・八ないし一メートルは傾斜地であり、右側溝を隔てて道路に面していること、敷地の上に盤木(三寸五分角)や鉄道レール用枕木などを積上げて、その上に鋼管を集積していたことは、原告・被告久保田間に争いがない。

また、≪証拠省略≫によれば、本件集積場は野天であり、そこに集積してあった鋼管は、四ないし六段に及んでいわゆる俵積みの方法により積重ねられており、その全体を、歯止を施した前記盤木、枕木又び敷地そのものでささえていること、また、鋼管一本の重さは二トン前後に及び、それが二七本積重ねてあったこと、即ち、鋼管の全重量は約五〇ないし五五トンにも達するものであったことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

前記争いのない事実と、右認定事実を総合して検討すると、本件集積場の土台は、地面の上に、盤木、枕木を何層かに積上げて、それに木製の歯止をとり付けただけの簡単な構造ではあるが、それによって土台の水平を保つとともに、鋼管の山をささえているもので、右盤木などや敷地面には、約五〇ないし五五トンもの重力が継続的に加わっており、鋼管の山の崩壊を防ぐため右土台部分の有している強度と安定性は相当なものであると推認され、(右歯止のある土台を欠けば、崩壊し易く、その崩壊を防ぐことは困難であると推測される。)また、鋼管はいわゆる俵積の状態において互いに組合わされ、下の鋼管は同時に上の鋼管をささえ前記盤木枕木ないし歯止によるささえを補強している状態であって、下の鋼管はそれ自体が土台の役割を果しているものであって、その構成部分になっているともいえる。そして、ひとたび本件集積場のように、二、三〇本もの鋼管が積み上げられると、一つ一つを順次とり除くことにより、ばらばらにしうるとはいっても、積み上げられた多数の鋼管による集積物件の支えとしては、前記盤木、枕木、歯止と相まって容易に移動することのできない一つの安定した設備ともいうべきものを構成するといえる。また、前記大浜工場内では、本件集積場は半製品置場として独立の場所が確保されたところに位置しており、半固定的、半永続的な鋼管集積場として存在しているものである。以上の意味で、本件集積場は、全体としてみると鋼管置場として即ち、敷地、盤木、枕木、歯止及び鋼管の山を全体として見たときには、民法七一七条にいう土地工作物たる土地に接着して人工的作業を加えることにより成立した物であると認めるのが相当である。

さらに、本件集積場の危険性の点からも検討を加えると、右鋼管の山は、ひとたび崩れたり、その一部が転落したりする場合には、鋼管の重量からみて、人身事故につながる恐れが大きく、本件集積場自体が極めて高い危険性を内包する工作物であるといえる。本件事故における正三郎の死亡といういたましい結果を見ても、本件集積場は右高い危険性を内包することを裏付けることができる。

以上のとおり、前記のように本件集積場は全体としてみると民法七一七条の土地の工作物に該当するものと認められる。

2、本件集積場には設置、保存についての瑕疵がある。

本件集積場は、前記のとおり高い危険性を内包する工作物であるから、集積された鋼管の転落又は鋼管の山の崩壊による事故の発生を防止するに足る社会通念上相当と認められるべき装備を有することが必要でありこれを欠く場合には、その設置又は保存に瑕疵があるものと認められる(もっとも、社会通念上予見しえないような外力が加わった場合にもなお事故を防止しうるだけの装備を有することは必要でない。)。そして、そのための装備としては、転落、崩壊そのものを防止するためのものと、転落、崩壊が生じても事故発生に至らないようにするものとの二種が考えられる。

原告は、後者に属するものとして、転落防止用の柵又は杭の設置と、集積場、道路間の相当の距離の確保が必要である旨主張する。そして、本件集積場に、転落防止の柵又は杭がなかったことは、原告、被告久保田間に争いがない。しかし、一本の重量約二トンもの鋼管の転落とりわけ、鋼管の山全体の崩壊のような場合にも、集積場にこれを防止しうるだけの強度を有する柵又は杭を設置しうることを認めるに足りる証拠はなく、(≪証拠判断省略≫)かつ、仮に物理的にかかる柵又は杭を設置しうるとしても、≪証拠省略≫によればこれは相当大規模な柵又は杭になることが予想され集積場における設備として社会通念上相当と認められるべきものとは断じがたいのみならず仮りにこれを設置した場合は、鋼管の集積作業上困難をきたし、その上その作業に際し人身事故を惹起する別個の危険性が生じる恐れがあることが認められる。そうすると、右のような柵又は杭を設置することは、有効な事故防止設備といいえず、これを欠くことをもって、工作物の設置、保存に瑕疵があるものと断ずることはできない。

また、集積場、道路間に相当の距離を置いて、転落した鋼管が道路上に到達しないようにすることについては、なるほど、これにより道路上の人間に対する危害の点は防止しえても、鋼管集積作業の性質上、人間が集積場の直近にまで近づく必要があることは明らかであり(≪証拠省略≫によれば、鋼管の山の上に乗ることすらあることが認められる。)この近づいた人間については、事故に遭遇する恐れがあるものというべく、これまた、有効な事故防護策とは言いがたいものである。そうすると、右相当の距離の欠除をもって、工作物の設置、保存に瑕疵があったということはできない(道路と直角の方向に鋼管を集積していなかったことも、右同様の理由で、瑕疵とは認められない。)。

以上、要するに、鋼管などの本件集積場においては、鋼管の転落、崩壊が生じてから事故を防止せんとする有効な手段は認められず、むしろ鋼管の転落、崩壊そのものを防止することの設備が不可欠であるというべきである。

そこで、転落、崩壊の防止との観点から本件集積場の瑕疵について検討する。まず、本件集積場の土台部分について見るに、≪証拠省略≫によれば、土台部分は、単に枕木、盤木などを積重ねただけであって、これを釘、かすがいなどで打付けて接続したものではなく、また、地中に打込んだり埋込んだりしておらず、地面の上に置いたに過ぎないものであること、また、枕木は、一見して判別しうるほど相当古いものであり、歯止に使われている木は、底辺一四センチメートル、斜辺一〇センチメートル、長さ一〇センチメートルの三角柱であることが認められる。(これに対し、ささえられている鋼管の直径は後記認定のとおり四〇ないし八一・三センチメートルもある。)右事実により判断するに、右土台部分は、前記のとおり、現に集積された鋼管をささえていたのであるから、相当程度の強度を有するものとはいうものの、その安定性において万全のものとはいいがたく、比較的小さな衝撃によっても、ずれが生じる恐れがあり、鋼管の転落、崩壊の一因になりうると認められ、かかる程度の土台ではたとい下方の鋼管が土台を補強するとしても、社会通念上相当であるとはいいがたくこれは、工作物の設置又は保存に瑕疵があるものと認めるのが相当である。

次に、鋼管自体につき検討するに、≪証拠省略≫によれば、本件集積場における鋼管の直径については、大きいもので八一・三センチメートル、小さいもので四〇センチメートルと二倍以上の差があり、また、長さについては、長いもので一、五〇〇センチメートル、短いもので八四〇センチメートルと、約一・八倍の差があったこと、鋼管の中には、中央付近に突出した部分を有するものがあったこと、これらを混然と俵積みにしていたことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫このような集積方法をとれば、同一又はこれに近い鋼管を俵積みしたときに比し、各鋼管の支点の平衡が保たれず、山全体の安定性を欠き、土台の少しの変動や、比較的小さな衝撃によっても、鋼管の転落、崩壊を招く恐れがあるものと認められる。本件集積場の鋼管は、半製品ばかりであり、右のように鋼管に異型が存すること自体は何ら瑕疵とはいえないが、これらを右認定のように集積し漫然とこれを俵積みしたことは、工作物の設置又は保存に瑕疵があったものと認めるのが相当である(なお、瑕疵の存否に関係はないが、付言すれば、半製品置場は広く、他にも集積場が存するのであるから、ほぼ同型の鋼管に分類の上、集積することは充分可能であろう。)。また、前記土台部分についての瑕疵を鋼管の側から見るならば、本件集積場程度の土台にしては、鋼管の数、高さ共に過大であると認められ、要するに、鋼管と土台のバランスを欠いた瑕疵があったものといいうるものである。

さらに、地盤について検討すると、本件集積場の敷地が埋立地であって軟弱であること、その上に約五〇ないし五五トンもの負荷が加わっていたことは既に認定したとおりであり、右敷地が舗装されていないことは、原告、被告久保田間に争いがなく≪証拠省略≫によれば、本件集積場の鋼管は、転落した二日前に一部積足した以前は、昭和四四年一〇月六日以前からずっと集積してあったものであることが認められる。これらによると、本件集積場は、少くとも七ヵ月以上もの期間にわたり、風雨にさらされながら放置されていたものであり、地盤の軟弱なこと、負荷の強大なことを考え合わせると、敷地部分に何らかの変動を生じていた疑いはあるがいまだこの点について瑕疵が存したと認定する心証を得ることはできない。また、敷地が一部傾斜していたことについては、何らかの方法でこれを補い、土台全体として水平を保てれば足りるものというべく、したがってかかる傾斜地の存在をもって瑕疵と即断することはできない。以上のように地盤については、瑕疵の存在を認めることはできない。

3、占有、所有関係

本件事故当時、本件集積場に集積されていた鋼管及び前記大浜工場従って本件集積場の敷地が被告久保田の所有していたものであることは、原告、同被告間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、前記盤木、枕木、歯止なども同被告の所有していたものであることが認められる。そうすると、本件集積場全体が同被告の所有であることになる。

≪証拠省略≫によれば、被告らの間には、昭和四四年一〇月六日前記大浜工場構内の鋼管の出荷、運搬及びその関連作業につき、請負契約が締結され、これにより、被告中谷は、鋼管等の仮置、積込、移動作業とこれに伴う数量確認業務を請負ったものであること、右請負の内容には、本件集積場における鋼管集積作業は含まれるが、集積場自体の管理を含むものではないことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫乙第二号証の作業内容欄に、被告中谷が製品の管理をする旨の部分が存するが、これは、右認定に照らし、右作業をなすに際して管理をするとの趣旨に解せられ、集積作業終了後も同被告がその責任において引続き集積場を管理するまでの趣旨があるとまで認められない。そして、右の趣旨の請負契約が存する外は、本件集積場の貸借関係などを認めるに足りる証拠はなく、本件集積場は被告久保田の前記大浜工場の一部である半製品置場に位置していること、前記各証拠によれば実際上も被告ら双方が注文者、請負人というそれぞれの立場から管理を実施していたことをも勘案すれば、結局、被告久保田は、本件集積場を直接支配する立場、従ってその瑕疵を修補しうる立場にあり、民法七一七条にいう占有者に該当すると認められる。

以上によれば、被告久保田は、本件集積場を占有かつ所有していたものであり、民法七一七条の解釈上、その瑕疵により生じた損害についての責任を免れることはできない。

4、因果関係

最後に、前記瑕疵と本件事故との因果関係につき検討する。

本件全証拠中にも、右因果関係を直接的に裏付けるに足りる証拠は存せず、むしろ、原因不明とするものが多い。しかしながら、≪証拠省略≫によれば、正三郎がホイールローダの修理をし、前田豊次がこれを手伝っていた際には、右両名共本件集積場内に入り、土台あるいは鋼管に接触したことはないことが認められ、また本件全証拠によっても、右の外、大きな外力が本件集積場に作用したことも認められず、本件事故の原因となるものが見当らない以上、本件事故は、前記認定のいずれかの瑕疵に起因するものと推認せざるをえない。即ち、≪証拠省略≫によれば、本件事故の二日前に、新たに約五本(前記のとおり一本約二トンとする約一〇トンの重量となる。)の鋼管を本件集積場に積足したこと、大浜工場に隣接する工場内の道路を生コン車が通行していることが認められ、右積足した鋼管の重量の作用により、右生コン車などの振動などが加わるのと相まって、本件集積場の土台、鋼管の山の何らかの瑕疵に基づいて、除々にずれを生じ、遂に最も安定性を欠いていた二本の鋼管が転落するに至ったものと推認されるものである。

以上により、被告久保田は、その余の責任原因につき判断するまでもなく、本件事故による損害につき賠償義務を負うものである。

三、被告中谷の責任

被告中谷が、その従業員田辺勝、同立村雅夫、同村田貞夫をして、前記大浜工場構内において、鋼管集積作業を行なわせていたことは、原告、被告中谷間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、右立村、右村田外四名の同被告従業員が、本件事故二日前の昭和四五年五月一六日に、本件集積場に約五本の鋼管を積足したこと、右作業にあたっては、同人ら自身の判断で安全を確認した上、集積することになっており、また現にそうしたこと、転落した二本の鋼管は、右積足された鋼管の内の二本であったことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。そして前記認定の本件集積場の瑕疵は、その性質上、本来一見して了知しうるものであると認められるが、同人らは、右集積作業をする際、漫然瑕疵がないものと判断し、一〇トン前後もの鋼管をこれに積足してさらに鋼管の転落、崩壊を招き易いものとしたものと認められる。このことは過失により違法な集積作業を行なったものということができる。そして右作業前の本件集積場の状態を作出したのは被告中谷ではないことは右作業の違法性に影響を及ぼすものではない。右違法な集積作業により本件事故が生じたことは、前記認定のとおりである。

以上によれば、被告中谷は、その被用者である右立村らの不法行為により生じた本件事故による損害につき賠償義務を負うものである。

四、損害

1、正三郎の逸失利益

≪証拠省略≫によれば、次の(一)ないし(八)の各事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(一)、正三郎は、昭和一九年三月一日生まれで、死亡当時は、二六才二ヵ月余であり、訴外会社における地位は、販売職群の三級に該当し、一ヵ月本給金二〇、四〇〇円の支給を受けていたこと。訴外会社においては、正三郎死亡当時の規定によれば昇給は毎年四月一日になされ、販売職群三級の者の昇給額は金一、七〇〇円ないし七五〇円、平均して金一、三〇〇円、同四級の者のそれは金二、〇五〇円ないし、一、〇五〇円、平均一、六〇〇円、同五級の者のそれは金二、二五〇円ないし一、二五〇円、平均金一、八〇〇円、管理職群の者のそれは金二、七五〇円ないし一、七五〇円、平均二、三〇〇円であること。正三郎は、昭和四五年四月の昇給時には、金一、一五〇円昇給したこと。右三級から四級、四級から五級に各昇進するのに、平均して各九年、五級から係長に昇進するのに平均して六年かかること。停年は五五才であり、正三郎は、同七五年二月末日をもって退職見込であったこと。

(二)、訴外会社においては、正三郎死亡当時の規定により、販売職群の者の勤務給として、本給の一・三八六倍に成績係数を乗じたものに金一、〇〇〇円を加えた金員が支給され、管理職群(A待遇)の者のそれは、本給の一・六六二倍を乗じ、さらに成績係数を乗じたものが支給されること。成績係数は一律一・〇〇であること。

(三)、訴外会社における正三郎死亡当時の規定によれば、時間外賃金は、時間割賃金(通常の労働日の通常の労働時間一時間に対する賃金)の一・二五倍の割合で支給されること。時間割賃金の算定は、賃金月額を一年における一ヵ月平均所定労働時間数(一日七・五時間月二三日勤務であるから、一七二・五時間)で除すること。正三郎の時間外勤務時間は、少くとも月平均五〇時間はあったこと。

(四)、訴外会社における正三郎死亡当時の規定によれば、管理職群(A待遇)の者には職責手当として一ヵ月金一五、〇〇〇円を支給していたこと。

(五)、訴外会社における正三郎死亡当時の規定によれば、賞与は夏季が本給の五・六〇倍、冬季は同五・九六倍、年間一一・五六倍の割合で支給されていたこと。

(六)、訴外会社における正三郎死亡当時の規定によれば、退職金は、退職時の本給月額に支給係数を乗じたもの(金一〇〇円未満切上)であること。同人は、昭和三八年九月二三日、大阪ふそう自動車株式会社に入社し、(この点については、≪証拠省略≫により認められる。)同社勤務中も訴外会社勤務と同視され、同人は退職までに、三六年五ヶ月余勤務することになるから、右支給係数は八三・〇であること。

(七)、訴外会社における正三郎死亡当時の規定によれば、停年退職者は、一年間は退職時と同一給与で訴外会社に勤務でき、その後は少くとも六五才までは就労可能であって、六〇才までは右給与の半額、それ以降はそのまた半額が支給されること。

(八)、原告は、正三郎の母であり唯一の相続人であること。

以上の事実が認められる。

(一)の事実によれば、正三郎の死亡後の昇給は、昭和四五年四月に前記三級に昇進したものとして、同五三年四月時までは、金一、一五〇円、同五四年四月時から同六二年四月時までは、金一、四五〇円、同六三年四月時から同六八年四月時までは、金一、六〇〇円、同六九年四月に係長に昇進し、同七四年四月時までは金二、〇五〇円が各見込まれると推認するのが相当である。よって、正三郎の得べかりし本給月額は別紙収入計算表(二)本給欄記載のとおりである。

(二)の事実によれば、正三郎の得べかりし勤務給月額は、別紙収入計算表(二)勤務給欄記載のとおりである。

(三)の事実によれば、正三郎の得べかりし時間外賃金月額(結局、通常の賃金月額を二・七六で除すればよい。)は、別紙収入計算表(二)時間外賃金欄記載のとおりである。

(円未満切上)

(四)の事実によれば、正三郎の得べかりし職責手当は、別紙収入計算表(二)職責手当欄記載のとおりである。

(五)の事実によれば、正三郎の得べかりし賞与年額は別紙収入計算表(二)賞与欄記載のとおりである。

以上認定の事実に基づき計算した正三郎の得べかりし収入年額は、別紙収入計算表(二)年収欄記載のとおりである。正三郎の要する生活費、その他の必要経費は、収入の二分の一であると認めるのが相当であるから、これを右年収から控除した上、年ごとのライプニッツ式計算法により、民事法定利率年五分の割合による中間利息を控除した正三郎死亡当時の価額は、別紙収入計算表(二)損害現価欄記載のとおりで、小計金一三、四二五、一三四円である。

(六)の事実及び前記認定の正三郎の退職当時の本給月額は金六四、五五〇円になる見込であるとの事実によれば、同人の得べかりし退職金は、次のとおり金五、三五七、七〇〇円である。

64,550円×83.0=5,357,650円→

5,357,700円(一〇〇円未満切上)

(七)の事実によれば、正三郎の停年退職後の得べかりし給与は、前同様ライプニッツ式計算法を用いて計算すると、別紙収入計算表(三)のとおりで、小計金一、二一一、六二九円である。

以上認定の正三郎の得べかりし利益総計金一九、九九四、四六三円を正三郎は、本件事故により失ったものである。よって、正三郎は右損害の賠償を被告らに請求しうるところ、同人は死亡し(八)の事実によれば、原告が正三郎の右請求権を相続により取得したものである。

2、慰謝料

本件事故による正三郎の死亡によって、母である原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料は前記認定の本件事故の態様、身分関係その他の諸事情を勘案すると金三五〇万円が相当である。

3、損益相殺

弁護士費用の判断に先立ち、損益相殺の抗弁につき判断する。抗弁の1ないし3記載の金員を原告が受領したことは当事者間に争いがない。右のうち、訴外会社から受領した弔慰金について考えるに、その金額が金三〇〇万円の多額に及んでいることから、右は香典ないしはそれに類する見舞金ではなく、前記認定事実及び≪証拠省略≫によって認められる訴外会社の規定上支払われるべき正三郎の退職金一一六、二八〇円を含むものではあっても、訴外会社の業務執行中に生じた事故に対する使用者としての災害補償であると推認すべきである。よって、右金額の限度において、正三郎の受けた損害は填補されたものと認めるのが相当である。次に、右23記載の遺族補償一時金及び遺族補償年金の既受領分については、正三郎の受けた損害は填補され、労働者災害補償保険法の規定上、その限度において政府に損害賠償請求権が移転するものである。よって、右1ないし3の金員は、原告の請求額から控除すべきものである。

抗弁の4記載の遺族補償年金の未受領分については、正三郎の損害が現実に填補されたわけではなく、原告は右年金の請求権を有するとはいっても、その性質は民法上の損害賠償請求権とはその趣旨を異にし、労働者災害補償保険法の規定上、被告らが損害金の支払をなすことにより、その限度で政府は右年金の支払をしないことができるのであって、既受領分とは事情が異なり、原告の請求額からこれを控除すべき理由はない。

以上によれば、原告の前記認定の損害金債権額のうち金四、〇五六、四八三円を控除した残額金一九、四三七、九八〇円が、弁護士費用を除いた損害金債権額である。

4、弁護士費用

原告が本訴提起につき、弁護士町彰義、同柴山誉之に対し、訴訟委任をなしたことは、訴訟上明らかである。そして、弁護士に訴訟委任をした場合、一般的に報酬契約が存することは、当裁判所に顕著である。本訴においては、事案、請求額など諸般の事情を総合して判断すれば、被告らに負担させるべき弁護士費用は、前記認定の損害金債権金一九、四三七、九八〇円の約八パーセントに当る金一五五万円が相当であると認める。

五、結論

以上の事実によれば、他に判断するまでもなく被告らは原告に対し、各自、前記四の3の損害金債権金一九、四三七、九八〇円(個々の項目別では原告の主張と異なるものがあるが一個の請求権であって当事者の主張に照らし相互に流用しても弁論主義に反するものではない)及び同4の債権金一五五万円の内金一〇〇万円、合計金二〇、四三七、九八〇円並びにこれに対する不法行為の日である昭和四五年五月一八日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるところ、原告の本訴請求は右範囲内に含まれ、すべて理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条一項を、仮執行宣言につき、同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奈良次郎 裁判官 惣脇春雄 裁判官大橋寛明は出張中のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 奈良次郎)

<以下省略>

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